バンダナ女とピーター・ビアード


少し前、夢にある女性が出てきて、それ以来気になってその女性が頭から離れない。


その女性とは、昔何度か行ったことがある御飯屋さんでパートとして働いていた60代くらいのおばさんで、酷く痩せている。そのおばさんは、オーナーがいない時はサラダをサービスしてくれたり、自分の話しをたくさんしてくれるのだが、オーナーが出勤してきた途端、話しの途中だろうがなんだろうがピタッと喋るのをやめ、今まで何も話してなかったかのように黙って仕事をする。


この店は少し変わっていて、マガジンラックにはどこの飲食店にでも置いているような『女性自身』や『FLASH』なんかに混じり、マン・レイやピーター・ビアードの写真集が置かれていた。ピーター・ビアードの名前や作品の断片程度は雑誌なんかで見て知っていたが、僕はここで初めてピーター・ビアードの写真集を見、そしてシビれた。


一度、そのおばさんに写真を撮っていいですかと聞いたことがあるが、断られた。
自分は今こうやってここでエプロンつけて働いているが、本当はそうじゃない。
私は歌をうたっているのだと。
毎週毎週カラオケの練習に通っていて、いつかは公民会館みたいなちゃんとしたホールできれいな衣装を着て歌うのだと。


「その時なら写真に撮られてもかまわない」、つぶやくようにそう言った。


その店に最後に行った時から、もう2年が経つだろうか。



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僕は何故かそのおばさんとその店で一緒に働いている(仕込まれた食材を、おばさんが一つ一つ小さなタッパに詰め込んでは僕がそれにフタをする。その繰り返し)。
途中、おばさんは何度も手を止めて僕を凝視する。その目が、「一体いつになったら写真を撮るのか」と言っているのがわかり、まだ写真を撮ってない僕は気まずくなり、フタをしめる作業に没頭するふりをする。そんな僕を見て、おばさんはまた作業をはじめる。


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そんな夢を見た。
その夢を見て以来、そのおばさんが気になって頭から離れない。



まるでバリー・ユアグローの小説のような夢だった。