写真では


今日、新しく社員さんで来る予定の人が、店の下見も兼ねて挨拶に来る予定だった。社員さんが決まれば、すぐにとは言わないまでも、社員さんが店に馴れ、仕事を覚え次第僕は店長から退いて通常のアルバイトに戻る。その予定だったがその人は来なかった。


一応店長と呼ばれる様になってから、何人もの人たちを面接してきた。ちょっと大丈夫かと言いたくなる様な人たちも多かった。
ゴスロリ風というかデーモン小暮風と言うか、化粧も髪の毛も服装もデーモンそのまま面接に来る女の子。ハローワークからの紹介で社員面接に来た40代、50代の人たちは強烈な人たちが多かった。「ボンジュール。セ コンビアン?ケレ ル プリ!」なんて風に大きな身振り手振りでいきなりフランス語を喋り出す人や、うどん屋の社員面接に来ているのに、履歴書を見るともう10年以上前に退職しているのに「ワタシゅは現役の自衛官でしゅ。ふしゅー」と言い張る人。もうそのまんま松本人志の『働くおっさん人形』で通用しそうなおっさんたちが何人もいた。


面接に来たある人のある一言が忘れられない。その人は50代の男性で、面接の時点では無職。妻子もいるからということで社員希望だった。履歴書の職歴を見ると、大きな新聞社のカメラマンとして働いていたり、自分で写真事務所を起業していたりと、十数年間写真で生活をしていた方だった。僕が「あ、写真撮ってらっしゃるんですか」と言い、「僕も写真を、、、」と続けようとしたらその人が言った。
「写真では生活出来ませんからね」。
結局その人はこちらから合否を伝える前に自分から断りの電話を入れてきた。


僕は今、近づいたり離れたりもしながら、日々うどんを作りながらその生活出来ないものに向かっているんです。