オデコから赤い糸





僕は元々スクールフォトをやりたかった。

幼稚園や小学校の芋掘りや栗拾い、遠足なんかに同行して撮影する仕事。

その気持ちは僕自身の楽しかった遠足の思い出から来るのかもしれない。



昔、スクールフォトの大手みたいな会社に登録してみたことがある。面接場所に大宮のビルを指定され、部屋に入ると5人同時に面接をされ、ほとんど所有機材に関することしか聞かれなかった。



ある遠足でひとりだけ頑なにカメラに顔を向けず写真を撮らせてくれない子どもがいた。その子が唐突に「いえーい!」といってダブルピースを決めてきた。とっさに僕は首に下げているカメラをぐいと引き寄せた。急なことで顔との距離感を誤ってカメラをおデコにぶつけてしまったけれど、気にせずにその子がポーズを決めるのを撮影した。するとその子が「赤い糸が出てきた!」と興奮気味に僕の顔を指差した。カメラが当たった時に肌が切れて「ツーーー」とまっすぐ一本、きれいに血がおデコから垂れていた。さっきまで大人しく写真を撮らせてくれなかったその子は、その出来事にテンションが上がりきってひたすらその場でジャンプを繰り返していた。



予想のつかない動きをする子どもを撮影するのは楽しかったけれど、その会社自体はビジネス的過ぎて僕が求めていたものとはどこか違った。



最近ある人の紹介で60歳を過ぎたおじさんと知り合った。そのおじさんはスクールフォトを個人でやっていて、手が足りない時に手伝ってくれる人を探しているという。僕がスクールフォトに興味があることを知り、時々連絡をくれて撮影させてもらう。最初に頼まれた撮影は雨でキャンセルになった。「申し訳ない」と言って雨の中僕の最寄り駅まで来てくれて昼からビールをご馳走してくれた。



その人に頼まれた撮影の打ち合わせに出て欲しいと言われたけれど、打ち合わせ日に僕は他の仕事があって行けなかった。その人が代わりに出てくれて、「メモ送っておきますから」と言われた。Eメールで何か撮影に関する事柄のメモが送られてくると思っていたら、その日の夜家に帰ると、その人からの封筒がドアポストに入っていた。



中には撮影に関するメモと、撮影場所の地図のコピー、あと交通費、昼飯代が入れられていた。撮影場所までの道のりを赤ペンでなぞられた地図のコピーをながめながら、なんてアナログで、なんて信用できる人なんだろうと思った。