赤目






少し前に洋服の撮影をさせていただきました。

モデル撮影ではなく、洋服のみの物撮りでした。



「ディテールは写らなくていいから面白く撮りたい」と言われ、展示会期中にその場所で撮るという難しい撮影でしたが、代表の方やデザイナーの方とアイデアを出し合いながら逆立ちしたり、歌ったり、二階から放り投げたりしながら撮影しました。代表の方に、「新しい提示の仕方が見つかった気がします」と言っていただき、制約が多い撮影でしたが、とても楽しい撮影になりました。





アシスタント時代、師匠の撮影はほとんど人物撮影だった。



ある日の撮影終わりに編集の人に、「すいません。これ読者プレゼントに使うやつなんで、簡単にでいいんでこれも一枚撮っておいてもらえませんか」と言われて箱入りの高価な栄養ドリンクを渡された。その当時デジタルカメラはまだ今程普及しておらず、ちょっとした小さな写真でもカメラマンがフィルムで撮ることが多かった。事務所に戻ると師匠に、「自分で考えて思うように撮ってみろ」と言われ、ライトを組んで、露出を計ってポラを切った。そのポラを師匠に見せてはダメ出しが出て、角度やライトをちょっと変えては、再度ポラを切り直した。



モデリングライトのみの薄明かりの中でファインダーを覗く。今のデジタルカメラと違ってフィルムでの撮影は充分な光量が必要で、暗がりの中で開ききった瞳孔に、シャッターを切る度に強いフラッシュの閃光が容赦なく飛び込んで来た。シャッターを切る瞬間は目をつぶっていればよかったのに、要領が悪かった僕は、毎回一生懸命大きく目を見開いたままシャッターを切っていた。当然のことながら目に大きな負担がかかり、結果、充血して目が真っ赤っかになった。



その出版社の指定現像所が青山にある堀内カラーだったので、現像に出してる間、近くのカフェに入って上がりを待った。カウンターの店員に「わかってるかもしれませんが、目が真っ赤っかですよ!」と言われて苦笑した。



読者プレゼントページの本当に小さな小さな映り込みすらもわからないほどの商品写真のために、なぜあんなにも何度も何度も(ポラロイドを切る度に師匠の負担も増えていくのに)撮り直しをさせられるのか、その当時はわからなかった。





人物撮影を中心に活躍していた師匠に商品撮影が入ることは珍しく、この機会に少しでも物撮りの基本を勉強させてやろうと考えていてくれていたんだと、アシスタントを辞めてからようやく気づいた。