宙船どんぐり

 
 
未記入の年賀状が出て来た。二枚。捨てるのはもったいないし、わざわざ郵便局へ交換に出かけるのも面倒臭い。なのでおかんに手紙を書いた。残暑見舞いじみた、とりとめもない内容。末尾に「136より」と記入。
「1・3・6」 で 「イ・サ・ム」 、自分の名前のつもり。
 
葉書が届いたようで、「136でイサムなんやねー」とおかんから携帯電話でメール。
「そうやで。136 で イサム、おかんは 445 で ヨシコ(おかんの名前)やで」と返す。
 
5分程でおかんより返信。たった一言、「了解」。
 
 
残っているもう一枚の年賀状を使って、再度おかんに手紙。阪本 445 様。内容はまたも駄文。
投函ついでに散歩でもしようかと思い、今年一度も穿いてなかった茶色の短パンを出して穿く。
 
ポストに時期外れの年賀状を放り込み、缶コーヒー片手に夜の公園を独り歩く。
 
ポケットに手をやると、家に置き忘れてきたのだろうか、用意したはずのiPodが見つからない。でも、まあいいやと思う。どうせ僕のiPodには英単語と、音楽は中島みゆきの「宙船」1曲しか入っていない。それに、ふと思いつきで持って行こうと思ったものの、基本的に僕は外でイヤホンをして音楽を聴くのが好きではない。街中では騒音を聞きたいし、自然の中では季節の音を聞きたい。
 
まさぐったポケットからiPodの代わりにどんぐりがひとつ出て来た。これは今年のどんぐりではなく、去年のどんぐり。思い当たる節がある。1年程前のこと、うどん屋によく来てくれる3才くらいの女の子が店に入ってくるなり僕に駆け寄ってきてこれを差し出した。「くれるん?」と言うと、こくん、とうなずいた。そのどんぐり。殻にパカッとヒビが入っており、中の身がころころ揺れる。
 
イヤホン代わりに耳に詰めてみる。
 
からりん からりん、と音がする。
歩くたびに、からりん からりん、と頭の中で音がする。
 
 
葉書にどんぐりのことを書けばよかったな、と思いながら夜の公園をからりん、からりんと独り散歩した。
 
 

 
カッコいい財布②