6×6


以前、キエフ60というウクライナの6×6カメラを使っていた時期があった。その前はずっと35ミリ白黒で撮って、アンダーで焼いた暗い写真ばかりだった。暗い写真にするつもりなんて全くなかったのに、どうしても暗くなってしまっていた。何一つ結果は出ておらず、自分の撮る写真も嫌いになっていた。その頃の写真は今も見返していない。何かを変えたいと思っていたけどそのきっかけが見つけられず、きっかけを無視して動き出す程の行動力もなかった。
気分を変えたかった。カメラを変えれば気分も変わると思っていたのかもしれない、新橋の中古カメラ屋でキエフ60に出会った。6月6日生まれなので以前から6×6カメラに興味はあったが、35ミリの一眼レフカメラに慣れてしまっていて、二眼レフやハッセルタイプの6×6カメラでは操作に違和感を感じていた。キエフ60を見た時には「これや!」と思った。3万3千円とそんなに高価ではなかったが、衝動買いできる程のお金もなかった。ひと月待ってアルバイトの給料が入るまで何度も見に行った。毎回売れていないか心配だった。給料日に自転車で新橋に向かっている時は清々しい気分だった。とても晴れていて、新しい一歩を踏み出すにはふさわしい日だと感じていた。一週間程カメラを見に行っていなかったが、何故だか売れていないという確信があった。
やはり確信どおり、二階のショーケースの中で「どてん」と僕を待っていたカメラを購入し、すぐに用意しておいたフィルムを詰めた。フィルムも白黒からカラーに変えた。明るい気分に変えるには色が必要だと完全に思い込んでいた。単純なもので徐々に気分が変わり、テンポというかリズムというか、軽やかにシャッターを切れるようになっていった。
それからは毎日撮り歩いていたが、ある日酔っぱらって自動販売機の上に登った時に地面に落としてしまった。これを機に調子が段々と悪くなり、ついにはピントリングを回している時にレンズが真っ二つに分解した。その時はもうすでにリハビリも完了気味でポジティブになっていた僕はこれを「次に行け!」という啓示と受け取った。以前と同じように写真を撮ることが楽しくなってきていた。
ちょっと思うところがあって、朝、アルバイトから帰って来てその時の写真を久しぶりに引っ張り出してみた。なかなかいいんではないだろうか。台所暗室でバット現像でのカラープリントなので色調はめちゃくちゃだけど好きな写真だ。
ファイルをみていると喉が渇いてきたのでコンビニまで牛乳を買いに出た。いつもの道だけど何度も写真を撮りたい気分になり、ジャージのポケットに入れてきたコンパクトカメラを構えてファインダーを覗くがどうもピンと来ない。どうやらさっきのファイルを見たせいで頭の中のフォーマットが6×6カラーになっているようだ。結局、帰るまで一度もシャッターを切れなかった。なんちゅう単純な脳ミソなんだろうか。
これらの写真、なんとか発表できないものかと思案する。