ホックニーとカモメ

古本屋でデイヴィッド・ホックニーの画集を千円で買った。カバーは無く、表紙はボロボロ。中を見てみると青山学院大学図書館の蔵書シールが貼ってあった。
僕はデイヴィッド・ホックニーを絵からではなく、写真から知った。何かの本の、確か「写真の新しい表現」というような特集記事の中だったと思う。そこにあの有名なホックニーのフォトコラージュ作品が載っていて、その時は「この人がこういう写真の先駆けなんや」くらいにしか思っていなかった。でもその時にデイヴィッド・ホックニーの名前は僕の頭にインプットされていて、ある日、アルバイトの休憩中に割烹着姿のまま立ち寄った青山ブックセンターで画集を見つけ、開いてみた。その中には母親を描いた絵が多くあり、それらの絵が皆とても優しく、柔らかく、素晴らしかった。「おかんの写真撮りたいなぁ」と思ったのを覚えている。


ぼろぼろの水色の表紙にあるシールの剥がし跡が、空に浮かんでいる雲に見えてきた。どうせシミも多く汚れてることだし、いっそのこと空にしてしまえと思い、ガムテープを貼付けては剥がし、貼付けては剥がした。最中、ずっと野狐禅の『カモメ』が頭に流れていた。



「空を描いていたつもりが 海みたいになってしまって 開き直ってカモメを描いた」 (カモメ/野狐禅