よれよれの茶封筒



この数日はなかなかにヘビーでした。


先ず、自転車が盗まれた。高級な自転車ではないけれど、僕にとっては大切なもので、鍵もきちんとしていたけれど盗まれてしまった。


友人知人から、その人自身の人生に大きく影を落とすような出来事を立て続けに聞き、心が「ズシン」と重くなった。きっとその人達はそれを糧にして強く生きて行くだろうし、僕はそれを信じるしかできない。


日展示に来てくれた先輩が僕の展示のことをフェイスブックの記事やブログで書いてくれていて、どこかで何かが間違って伝わり、「作品だけで生きている」と書いてくれていたけど、そんなことはとんでもなくて、僕個人の仕事もまだまだ少なく、僕でなくてもいいような、名前も記載されない撮影も少々、いや、多々させてもらっている。
先日、その撮影仕事でのデータが飛んだと連絡を受けた。CFカードやPC本体の復旧作業を一日中唸りながらして、なんとか事なきを得た。もう二度とこんなことは経験したくないけれど、この経験は強い自信にもなった。


反面、嬉しいこともあった。


数年前、とにかく自分の力で仕事をしようと決意し、うどん屋を辞めた。
なんのツテもコネもない僕にすぐに仕事が来るはずもなく、出版社などに持ち込みをしながら朝夕は平和島の倉庫で働き、夜はコンビニのレジ打ちをして糊口を凌いだ。
その平和島の倉庫で働いていた時の上司が、今銀座でやらせてもらってる個展に来てくれた。上司は「ようやく渡せる」と言い、よれよれの茶封筒を僕に差し出した。それは、僕が倉庫で働いていた時の給料袋で、その倉庫ではほとんどの人が日払いで日当を受け取っていて、僕もそうしてもらっていたので全額受け取っているはずだった。

よくよくその茶封筒を見ると、それは残業手当や諸々の雑費を含めた前渡し金額の差し引き支給額で、入っているのは3345円だった。日付を見れば2012年の2月分、その上司は2年半程前の3345円をずっと大事に持っていてくれたのだった。3345円を得たことなんかではなく、上司が「いつかまた会うのだ」と思っていてくれたことが嬉しかった。


その上司は展示をゆっくりと時間をかけてひと回りし、「がんばってるね、嬉しいよ」と言って帰っていった。