1分間ヒーロー

 
 
最近はずっと、インターネットから離れていた。メールをチェックすることと、格闘技の情報をみることくらいでしかインターネットを利用していなかった。
 
 
僕は、きっと、どちらかと言えば自転車の両手離し運転が人よりも上手い。時には左手に缶コーヒー、右手にコロッケパンを持って食べながら自転車を漕いでる時もある。以前、「危ないからやめなさい」と咎められたことがあり、「いつかは派手に転ぶやろうから、やめようやめよう」と自分でも思っていても、自転車に乗っているとついついクセでやってしまう。
 
今日も両手離しで自転車を漕ぎながら、ポケットから携帯電話を取り出し、なんやかんやしながら漕いでいたら、路地から飛び出してきたガキンチョが僕を指差し、「うおーーー! すげーーー!! うまいーーー!!!」と叫んだ。僕が「イエイ!」とピースサインを両手で返すと、ガキンチョは路地を振り返り「来い!すごい!!」と仲間を呼んだ。少しの間があり、僕の背後で、今度は複数の歓声が聞こえた。嬉しくなった僕は大袈裟に両手をY字に挙げ、まるでグリコのマークみたいなポーズで両手をピースにし、角を曲がった。
 
「!!!!!!!!!!!!」
 
さらに大きな、もうほとんど爆発音のような歓声が背後で起こった。
 
 
「誰でも人生で15分間はヒーローになれる」というアンディ・ウォーホルの有名な言葉がある。15分どころか1分もないくらいの短い時間だったし、相手はガキンチョ数名だったけど、その間僕は彼らにとってはヒーローだったんじゃないだろうか。この数日間、なにか今イチやる気に欠けていたけれど、彼らの声援に対して何とも言えぬ責任感を感じた。
 
 
角を曲がると目の前は急なのぼり坂だった。僕は両手でしっかりとハンドルを握り、全力で全力で漕ぎ続けた。思ったよりも早く来た息切れに、「がんばらなあかんな」と情けなく思った。
 
 

 
 
近々、web上で展示をさせていただきます。URL等、詳細はもうすぐ発表させていただきますので、どうぞよろしくお願いします。