中目黒銀座のスポーツ用品店の店頭に放り出されたワゴンセールの靴をまさぐっていると

中目黒銀座のスポーツ用品店の店頭に放り出されたワゴンセールの靴をまさぐっていると、「こんにちは」と声をかけられた。

声をかけてくれたのは店によく来てくれる女性で、来る時はいつも3、4歳の娘さんを連れていて、「若いのにきちんと母親してるなぁ」という良い印象をもっていた人だった。
「最近もう一つ、近所のご飯屋さんで仕事を始めて、その帰りなんです」と言うので、
「他には何のお仕事されてるんですか」と訪ねると、六年程前に、レースクイーンやコンパニオンなどを派遣する会社を自分で立ち上げたと言う。
その女性の年齢はおそらく僕と同じくらいか、上だとしても一つか二つ。
六年前というと、確実に今の僕よりも若い時に会社を始めたことになる。

驚いて、「すごいですね」と言うと、「全然すごくないです。仕事が少なくなってきたから、もう一つ仕事しながら立て直そうと思ってるんです」と謙遜された。


小さくとも細くとも、どこにも所属せず自分で何かをして生活している人を僕は尊敬する。
大企業に勤めて月に100万円稼ぐ人はそれはもうすごいけど、それよりも、自分で20万円稼いでその中で生活している人をかっこいいと思ってしまう。




友人との約束の時間までまだ少しあったので渋谷のマクドナルドで読書。
ハンバーガーの一番高いやつと、ポテトの一番多いやつと、オレンジジュースの一番でっかいの。もらいものの株主優待券で全部無料。
イエイ。


中平卓馬の『中平卓馬の写真論』。


ア・プリオリに捕獲された<イメージ>は具体的には私による世界の潤色、情緒化となって、、、
六〇年代末期から始まった総叛乱の帰結としての極少過激派の社会的悪と退廃の露呈という、、、
「無益な自己批判」と呼ぶもの、、、、、、


とムニャムニャするものの、隣のテーブルに座っているギャルとギャル男の会話が邪魔をして内容が全く頭に入って来ない。
どうやらギャルがギャル男に告白をし、ギャル男が断ったという感じ。しかしギャルは全然へこんでおらず、「えー!ショックなんだけど!」と大声で笑っている。


こんなとこで愛の告白すんな、しかもそんな軽いノリで。気になって集中できへんやろが。


難解な言語が飛び交う論文には到底集中できず、先程中目銀座の古本屋で見つけた いましろたかし の『グチ文学 気に病む』に目を移した。
中平卓馬の写真論』の文章はもう何度も何度も同じところを行き来し、少しづつしか進まなかったのに対し、いましろたかしの文章は易しくて一気に読み切ってしまった。


いましろたかしは文章もやはり「いましろたかし」だった。


自分の生涯収入がサラリーマンのそれに追いつけそうにないことや、将来に不安を感じ漫画の専門学校の講師の面接を受けに行って落ちた話、緑内症におかされていることや、自分の本の宣伝のためにブログを始めたが、あまりに人気がなく、仕事のメールやいたずらメールすら一通もこなかったこと、ネット配信された漫画の印税が600円だったことなど、私生活が赤裸々に書かれていて興味深く、面白かった。あまり、というか全く明るい話題が出てこないのに、不思議なことに読んでいて暗い気分にはならなかった。


体調の良い時は机に向かって漫画を描き、時間ができれば釣りに出かける。そんないましろたかし晴耕雨読のような生活をちょっとうらやましく感じてしまう。たとえサラリーマンの生涯収入に追いつけなくとも、尿結石に悩まされても。他人事だからそう思えることは重々にわかってはいるけれど。


明日撮影で早起きにもかかわらず、深酒けで昨日寝すぎたため、眠れずにこんな駄文をかいている。