踊り子オババ


仕事が休みだったので、以前から気になっていた近所の飲み屋へ友人と二人で。
この飲み屋、仕事終わりの深夜に前を通った時もたまに空いている時があって、中をチラリ覗き込むと狭い店内に数席のカウンター席。ジャガー横田が年をとったようなオババが「どでん」とカウンター内に座ってタバコを吹かしている。昭和レトロ、場末のバーといった感じ。しかも風の噂で聞くには、オババの息子は現役プロレスラーという、、、。なんとなく気軽には入れない雰囲気。


「いざ!」といった感じで気合いを入れて店に入ると、なんのことはない、ものすごく気さくなママさんだった。どう考えても計算が合わないが、1942年生まれの30代だと言う。


色々な話を聞かせてもらう。高度成長期で日本中浮かれていた時の話。ママが踊り子をしていた時の話。
「まったく渡辺克己さんの世界やなぁ。あの渡辺さんの『新宿』の写真集にも写ってるんちゃうかー?」と友人が言ったので、家まで走って渡辺克己さんの写真集『新宿1965ー97』をとりに帰る。店に戻ってママに見せると、ママは引き出しから取り出したでっかい虫眼鏡でまじまじと眺め、「わー、懐かしい!わー、懐かしい!」を繰り返す。あまりにもママが喜ぶのでプレゼントした。友人が言うには、「今、5万円くらいの価値がついてる」らしいが、自分が持っているより絶対にここに置いていた方が本が生きると思った。見たくなればまたここに来ればいい。ものすごい喜んでくれた。


店のBGMはフラメンコ。CDデッキで流しているが、CDが傷だらけなのか、音飛びが激しい。ママが言うには、友人が作ってくれた宝物のCDなのに、最近「酸欠」が激しいらしい。パソコンに取り込めたら新しく焼き直して復活できるかもしれん、とCDを預かって帰る。