フェラーリとソファー


平塚美術館に絵本作家の田島征三さんの展示を観に行った。一週間程前に観た展覧会だけど、この日、田島征三さんのギャラリートークがあったので再度足を運ぶ。


印象に残った話。


■『やぎのしずか』シリーズが売れに売れて印税が沢山入ってきた。嫁さんが三越で買ってきた革張りの大きなソファーに、どすん、と腰を下ろした途端、「退廃した芸術家」という言葉、イメージが頭に浮かんできて、「こんなんじゃダメだ!」と叫んでそのソファーをギッタンギタンに破壊してしまった。当時、編集者と揉めていたこともあり、『やぎのしずか』を自ら絶版にした。
売れなくて絶版になるのは当然だけど、売れまくっている本を絶版にするなんて今まで聞いたことがない。


この話を聞いて、僕はビートたけしの話を思い出した。
時代は漫才ブームになり、急に大金が手に入るようになって、フェラーリを購入した。高速にのり、猛スピードを出したとたん虚しくなり、「俺はこんなことがしたかったんじゃない!」と大泣きしながらフェラーリをボッコンボコンに潰したらしい。


■「新しい自分を」と、何年もかかってようやく新しい画風での新作絵本ができた。その絵を児童文学作家の今江祥智さん(『ちからたろう』で共作。田島征三さんは今江祥智さんを「自分を押し上げてくれた人」と言っていた)が、「今度の田島もいいじゃないか」と言っていたことを出版社の人から聞いて、「今まで自分を褒めてくれていた人がまだいいと言うということは何も変わっていないじゃないか!」と思い、全部描き直しにしてしまった。出版社の人からは「この印刷代を払え」と迫られたらしい。


ギャラリートークが終わり、絵本を購入した人へのサイン会があった。相当数の人が並んだが、田島征三さんは丁寧に全てイラスト付きでサインをしてくれた。しかも一人一人違うイラストで!僕には鳥の絵を描いてくれた。もう70歳近いのに、栄養ドリンクを飲みながらサインし続ける姿勢には刺激を受けた。