クリーニング店の木版画


スーツをクリーニングに出してきた。僕は滅多にスーツなんて着ないから馴染みのクリーニング店なんてないので、ずっと気になっていた木版画が壁にかけられている店に行った。このクリーニング店の前を自転車で通る度に店内の木版画を覗き見るのが密かな楽しみだった。何ヶ月かに一度木版画はかけえられるが、いつも同じタッチなので一人の作家の作品のようだった。
いつもは外からチラリと覗き見る程度だったが、今回ばかりはスーツをクリーニングに出すという大義名分を盾に堂々と店内に入り、スーツを預け、木版画をまじまじと見た。受付のおばちゃんに「これは誰の版画なんですか」と聞くと、「えーっと、、、」と考えながら、奥から小さなカレンダーを持ってきた。そのクリーニング店が顧客に配布するために作ったカレンダーらしく、同じ作家の版画が二ヶ月毎に一枚添えられていた。カレンダーの中の木版画は、壁にかかっている木版画と同様に二色のシンプルな木版画で、双眼鏡やバイクのヘルメットなど、素朴なものを題材に使われていてとても好きだった。その作家がクリーニング店に送った年賀状も見せてもらった。作家は小井田由貴さんという人だった。おばちゃんにそのカレンダーをいただいて帰った。次はいつかけかえられるのだろうか。小さな楽しみはいくつもある。