『TOKYO STYLE』


バイトの先輩と、「初めて買ったCDは何か」という話しになった。先輩は『Bon Jovi』らしく、僕は映画『Stand by Me』のサントラだったと思う。
初めて買った写真集はと考えてみたら、都築響一さんの『TOKYO STYLE』だった。
この写真集を買った時のことはよく覚えている。中3の時、参考書を買うという友人と二人で自転車をこぎ、隣町にある豊臣書店というバカでかい本屋へ行った。僕は参考書など買うつもりはなく、漫画や雑誌などをみてまわっていて、文庫本のコーナーで『TOKYO STYLE』を見つけて手にとった。他の文庫本と比べてひときわ分厚く存在感があったことと、その頃熱心だった原田宗典椎名誠の小説の影響で東京への興味が強かったことから『TOKYO STYLE』を手に取ったのだと思う。
内容はというと、ひたすらおんぼろアパートの部屋の写真。決してインテリア雑誌に紹介されることのないような、風呂なし、共同便所、くたびれた畳、、、といったような小汚い部屋ばかり。小さな頃から古いものを魅力的に感じる癖があった僕は、その雑然とした部屋たちに一気に魅きつけられた。他人の部屋を覗き見る興奮も手伝っていたのかもしれない。どうしてもその本が欲しくなり、お金を持たずに来ていた僕は友人に「これ買いたいから」といってお金を借りてこの本を買った。友人はパラパラとめくって、「なんでこんなん欲しいねん」と不思議そうに言った。その時はまだこの本を写真集とは全く意識していなかった。写真に添えられた都築さんの文章も面白く、掲載されている部屋の多くが売れないミュージシャンや絵描き、漫画家や劇団員などといった人たちの青春丸出しの部屋が多かったのも当時の僕には刺激的でたまらなかった。何度も何度も繰り返し覗き見ては東京という街と一人暮らしに思いをはせていた。
今、僕自身が東京の風呂なしボロアパートに住み写真を撮っているのは何の因果か。